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やがて隆志とちづるは、十日前に二人が出会った公園、『桜木公園』に着いた。
そんなに広い公園ではないが、文字通り桜の木が多数彩っている公園だ。
既に幾つかの木々は桜が開花しており、公園は一年で一番綺麗な時季を迎えようとしていた。
公園に着くと、ちづるは桜の木々が立ち並ぶ遊歩道の、所々に設置してあるベンチの一つに座った。
そしてセーラー服の胸ポケットから、持参してきた一冊の本を取り出した。
隆志はその隣に座りながら、その本に目を向けた。
「あれ、その本は…。」
「隆志さんの部屋の本棚からお借りしました。」
「ふーん、そうか。」
隆志は本の題名を見た。
「『坂の上の渚』か。これ大分前の小説だけど気にいったのか?」
「はい。とてもいい本です。」
ちづるは笑顔で答え、ページをめくった。
それ以降、ちづるは『坂の上の渚』を読み耽った。
一方の隆志は、少し眠たくなったので、彼女の隣で昼寝を始めた。
しばらく経ち、目を覚ました隆志は、飲み物でも買おうかと公園の入り口付近にある自販機を見て腰を上げた。
すると、
「タカシー!」
元気な女の子の声が聞こえた。
声の先を見ると、青色の幼い制服を着た、大きな両眼がたまらなく可愛い七歳位の少女が此方に走って来た。
「おお、カオリ。」
お前も来たのか、と言うように隆志はその少女を見て笑った。
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