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地球と世界樹の先にある葉星は、手を取り合って互いの周りをくるくると回るワルツを踊っているようなものだ。
重力だけを要素として計算した場合、主星と伴星が存在し続けるには、重力と遠心力とが釣り合っていなければこの関係は破綻してしまう。その間にあって二つの星を結ぶ紐のように伸びる世界樹は、重力と遠心力のバランスがとれていたとしても、遠心力に加えて地球、葉星それぞれの重力に引き裂かれ、二つの惑星に引き寄せられてそれぞれの一部になっていただろう。その場合、人類が目にするのは、重力的に平衡状態にある二つの惑星の中心近くにちっぽけな残骸のみになっていたに違いない。
だが、現実はそうなってはいない。世界樹はただ引き込むだけの重力源になっているのではなく、時空間に根を張るように干渉しているらしかった。
自分達の住む世界が二重惑星である事に人類が気付いたのは、比較的最近の事だった。世界樹の存在は有史以前から知られていたが、それは必ずしも“樹”とは認識されていない場合すらあった。だが、それが視界に入る地に住む者は必ず、自らの宗教にそれを採り入れた。一度目にしたならば、その神秘的な存在感と美しさに誰もが無視する事は出来なかった。
しかし、どんな宗教家も世界樹の上に立った時に見る、その光景の美しさを知らなかった。
どこまでも果てしなく続く巨大な丸太状の地球。幹は緩やかに曲がりくねり、所々瘤や枝もある。そして、頭上だけではなく、右を向いても左を向いても、両手いっぱいの満天の星空がすぐ手の届きそうな位置に広がっている。幹の先に視線を向けると、光り輝く大気が幹を包み、目を奪われるような壮大で神秘的な光景がどこまでも続いている。足下には巨大な幹が地上で見慣れた木肌がしっかりとした感触と共に安心感を与えてくれる。
世界樹は死の世界ではない。どこからどうやって種が飛んできたのか、世界樹の幹を地にして様々な植物が花や実を付け、そこかしこで育っていた。昆虫や小動物も棲み着き、植物の実を運び蜜を吸う。所々から世界樹から水が染み出して窪みに貯まり、生き物達の水飲み場にもなっていた。ここは正に細長く紐解かれた地球そのものだった。
ついに人類が超高高度にある世界樹の根に到達した時、その眼前に広がる光景に、背後の地球を振り返って眺める事すらしばし忘れたという。
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