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幹は全体の長さから考えるとほぼ真っ直ぐに伸びていると言ってもいい。しかし、29万kmを縦から見た場合、ほんの少しのうねりや突起、枝が邪魔して先を見通す事が叶わなかったのだ。それに、大気の存在が曇りガラスのように視界を霞ませてもいた。地球ではその形状から5km先くらいしか見通す事が出来ない為にその効果が分りにくい。だが、世界樹の上では場合によっては100km先まで見通せる。直線距離にしてそれだけの大気の厚みがあると、望遠鏡がどれだけ高性能であろうと霞んでしまう。
調査隊は何度も送られた。便宜上、世界樹の樹冠に到達した探検隊のみを第一次、第二次と呼び習わしているが、その前には歴史に忘れ去られた無数の失敗に終わった探検隊があった。だが、葉星を初めて肉眼で目にしたのは、そんな無名の探検隊の一つだった。地球上からでは世界樹が邪魔でほとんど見えなかった葉星が、ついに人類の前に姿を現したのだ。無名の探検隊の生き残りがもたらしたもの――数学者の計算や予測などではなく、確かにそこにあるという重みが、困難な探検事業に怖じ気づくことなく、人類を駆り立てた。その無名の探検隊の体験談は神話に匹敵する偉業だった。
もちろん、彼らの体験記が出版された時、世界中にその評判は駆け巡り、彼は一躍時の人となった。それが何故、無名なのか。真に偉大な一歩がその後にやって来て世界を席巻したからだった。
長い年月の果てに、ついに人類が世界樹の樹冠帯に到達したのだ。
第一次探検隊は限られた物資の故に、星を目の前にしながら数日で引き下がらずを得なかった。だが、彼らは多くのものを持ち帰った。何よりもその美しい星を、間近から望遠鏡で観察した事は大きな成果だった。
そこには地球に似た大地が広がり、不思議なほど地球に近い組成の大気があった。同色部の存在も確認され、そして、彼らは故郷を離れて二十七年ぶりの青い海を目にした。
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