前編

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 第一次探検隊到達から三十数年が経過した。  二度目にやって来たのは、より本格的で網羅的な調査隊だった。大規模な魔道団や様々な分野の専門家、基地建設の為の大工も連れて来ていた。第一次調査隊より規模は何倍も大きくなったが、地球からの旅にはたったの五年しかかかっていない。この時には、原始的ながら超流動リニアが発明されていたからだった。  第二次調査隊出発の一年前に、天才的な魔導師にして物理学者であったイングニアス・トリフィドルリングが、世界樹の幹にある種の超流動体が高速に流れている事を発見した。その仕組みや目的は不明なままであったが、その超流動体を利用して、魔法を含む従来のいかなる方法を用いても到達不可能な高速移動手段が生み出された。第二次調査隊はまだ実験段階だった超流動リニアを用い、少しずつ開拓するようにして29万kmを越える世界樹の幹を渡ってきたのだった。それでも、第一次調査隊の時は、片道二七年の旅だった。  第二次調査隊はウルダル樹冠帯に長期滞在の為の基地を建設し、“ウルダル前線基地”と名付けた。第一次調査隊の報告から、原理不明ながら樹冠にある湖“ウルダルの泉”の水源が事実上の無尽蔵である事が分っていた為、自給自足の体制を構築するのは難しくなかった。  調査隊の第一の目的は、目の前の星に上陸する手段を見付ける事だった。だが、樹冠帯到達から四年が経過してもなお、いまだYgd―ti―1に人の手は届いていなかった。  四年間も足踏みを強いられたのは、この伴星が魔力を打ち消す作用を持っていたからだった。有史以来魔法を使い続けてきた人類にとって、これは宇宙進出よりも衝撃的な事だった。理論的には魔法が抑制された惑星は有り得たが、現実にそんな惑星があるとはまともな物理学者が誰一人考えた事もなかったのだ。  樹冠帯最先端部からYgd―ti―1まで32km。ロープを垂らして降りられる距離では無かった。  お手上げだった。  この頃、調査隊の関心はYgd―ti―1から世界樹の樹冠帯に移行し始めていた。長期の調査研究にも関わらず、すぐ目の前に浮かぶ星に手が出なかったからだ。
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