前編

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 それから一年が経過した。  ウルダルで初の人類誕生。  そのニュースは、研究が行き詰まり、重苦しい空気に包まれていた調査隊に、明るく前向きな気持ちを取り戻させた。  その年、赤子誕生に勇気付けられたのか、一部の隊員がYgd―ti―1上陸案を提案した。  反対する者も多かったが、研究の閉塞感を突破するには、星に何とかして上陸する道を付ける以外に無かった。結局、Ygd―ti―1降下作戦は、提案者や志願者からなる十二人の小隊が推進することとなった。他の隊員は手が空いている時に手伝う。  この星はマントラ対流による効果で魔法のほとんどが使えなくなっており、樹冠帯はその影響下に含まれていた。魔法に一切頼らない方法を編み出さねばならなかった。  世界樹の枝が、強度もしなり具合も素材として十分過ぎる物だった事は幸いだった。隊に加わっていた理論物理学者も協力し、その手法が練られていった。  その一方で、彼らはもう一つの人類史上例のないものを平行して作成していた。  人類史上最長のロープ。
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