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先生はどうやら童貞らしい。
ずれた眼鏡を上げる仕草。ボサボサの髪に、縁の厚い黒い眼鏡。よれよれのワイシャツで、たまにその裾がスラックスから出ているという、同級生の評価はすこぶる悪い。ぶっちゃけて言えば、地味でダサい教師。それが彼だ。
「先生さー、その前髪、どうにかなんないの?」
しかし、皆、先生の長い前髪の下が、端正で整った顔立ちをしているというのを知らないのだ。
まぁ、どうにかなんないのと言いつつ、どうにかなると私が困るのだが。
外を見ると、入道雲がゆったりと流れていた。
暑い。大分気温の上がった教室。補習のペーパーが、汗で肌に張り付く。私は手で仰ぎながら、胸元をパタパタさせた。
「これは好きでやってるの。ていうか、君は授業態度がどうにかなんないの……?」
先生は、明らかに呆れた口調で言っていた。
こいつ、私と二人で教室にいるのに、なんとも思ってないのだろうか。私はなおも胸元パタパタさせた。
補習も最後の最後まで残って、今や教室には私と彼しかいない。普通童貞なら、結構動揺すると思うんだけどなぁと思う。正直、自信無くすなぁ。
自分で言うのもなんだが、私は同い年の中では結構イケている方だと思う。身だしなみも気にしてる(校則違反だけど)し、香水だって夏用に新しいのに変えた。ネイルも夏の限定のを付けてきたし。
身体だって自信ある。胸もそれなりにあるし、くびれだってちゃんと作ってる。月に一回くらいは誰かに告白されているけど、それをひけらかしたりしないくらいの空気だって読める。なにこれ。私ってめちゃいい女じゃない? 割と美少女じゃない? 確かに補習するくらいはそんなに頭は良くないけど、それは愛嬌って感じでしょ?
「とりあえず……なんとかこれで点とってよ……あと君だけだよ?」
先生は困ったように言う。
そう。そうなのだ。君呼ばわりとかありえない。普通教師なら苗字くらい呼べっつーの。これだから童貞は。
少しムカついたので、私はいたずら心がざわついて、あることを閃いた。
「ねぇ、先生」
私は、先生に気づかれないようにブラウスの一番上のボタンを外した。
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