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外出するのが怖くて、しかたがない。
こんなことなら早く自宅に帰りたいが、お盆休みになると、両親もこっちに来ることになっている。そのあと数日、泊まってから帰る予定だ。
今すぐ帰るためには、その理由を話さなければならなくなる。
あさってには、もうお盆だし、パパとママが来てくれたら安心だから……そう考えて、雅人はガマンした。
それから数日後。
お盆の最終日に、神社でお祭りがあった。
あの林の奥の神社だ。
「おーい。雅人。お祭りに行こうか」
父にさそわれて、雅人は迷った。
ほんとは行ってみたい。
小さな神社のお祭りだけど、屋台がたくさん出て、わりとにぎやかだ。
でも、外に出ると、圭介に見つからないだろうか?
圭介は雅人の家の住所を知らないから、家に帰ってさえしまえば安心だけど……。
圭介だって、僕が大人といっしょにいれば、なんにもできないよね?
そう考えて、雅人は両親と夏祭りに行くことにした。
神社はすっかり飾りつけられていた。いつもの暗いふんいきはなく、明るく楽しそうだ。
「ねえ、お父さん。あれ、なんて読むの?」
鳥居の上に神社の名前が書かれていた。くすんで、ほとんど漢字の形さえわからないのに、父はたいして見もせずに答えた。
「空蝉神社って言うんだよ。昔、ここで亡くなった平家のお姫さまを祀っているんだそうだ」
「空蝉って?」
「蝉のぬけがらのことさ」
「ふうん」
蝉のぬけがらなんて、変わった名前の神社だと思った。
蝉の神社に蝉じいさんが埋められてるなんて、なんだか、とても不思議なぐうぜんに思えた。
神社には、たくさんの人が来ていた。
ちょうど父の幼なじみだという人が何人も家族づれで帰省していた。その人たちの子どもも大勢、来ていた。雅人と同い年の女の子がいて、仲よくなった。
かき氷や綿菓子を食べた。
金魚をすくって遊んだり、射的がちっとも当たらなくて、ふくれたり。
あまりに楽しくて、雅人はすっかり圭介のことなんて忘れてしまっていた。
大人はお酒を飲みだして、長話を始めた。
子どもだけで花火をすることになった。一番年上の中学生が、バケツに水をくんできた。打ち上げじゃない花火をこんなにキレイだと思ったのは初めてだ。
「ああ、バケツがいっぱいになった。誰か新しいバケツに水くんできてよ。社の奥のお地蔵さんのところにあるからさ」
中学生に言われて、雅人は一人で走っていった。
お地蔵さんのよこに水道があることは知っていた。虫とりのときに何度か、祖父といっしょに利用したことがあるからだ。
花火はまだ二袋もある。楽しいな。楽しいな。
早く帰らなくちゃ。
息も心も弾ませながら、雅人は地蔵堂まで走った。
だが、その途中だ。
とつぜん、うしろから、ぐっと肩をつかまれた。
ふりかえると圭介が立っていた。
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