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もうしおらしい真似をする気もないようである。夏の闇にふさわしからぬ元気な声を出した彼女の手を引いて、彼は歩き始めた。
「ねえ、どういうこと?」
「くどいぞ、自分で考えろよ、タマキ」
「考えるのは苦手なんです。だから、あなたがいるんでしょ。わたしがしないことをするためにあなたがいる」
「オレが言ったことはそういうことじゃない」
「じゃあ、どういうことなの?」
そのとき、背後からドンという景気の良い音が聞こえ、大輪の光の花が一瞬闇夜を彩って消えた。
しかし、二人はそちらを見なかった。
たとえ見えなくても、花火よりも見るべきものが今、互いの瞳の中に映っていた。
(了)
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