本編

6/10
前へ
/10ページ
次へ
 歩道に備え付けられたベンチで人波を前にしながら、たこ焼きをハフハフ食べ終わったあとも、彼女は考えをまとめ切れなかったようである。水ヨーヨーを吊り上げてぽよんぽよんと手の平に打ちつけて遊んだり、射的でどうしても景品に当たらなくて悔しがったりしたあとも、なかなかまとまらないようであった。つまり、まとめるつもりがないということである。  響いていた祭囃子が一層大きくなって、豪奢な装飾がほどこされた背の高い山車が大通りを運ばれてきた。まるで小さな提灯で飾られたツリーがふらふら揺れながら歩いているようにも見える。周囲のざわめきが大きくなった。  彼は彼女の手を引くと、前に出てよく行列を見ようという群衆に逆行して、大通りから少し離れた。黒い林のようになった人越しに山車を見るのは困難である。彼女が残念がっているかと思った彼だったが、意に反して、隣にいる彼女は山車など見ようとしていなかった。 「どうかしたか?」  街灯代わりに掲げられた提灯の薄明りの下で、じっとこちらを見る彼女の瞳にいたずらな光がまたたいた。 「わたしが今どのくらい誇らしい気持ちか、レイには分からないでしょうね」  それどころか言っていること自体が分からない。彼女の頭の回転……というより飛躍にはしばしばついていけないことがある。こういうとき彼はあえて訊き返したりしないように気をつけていた。想い人の言葉である。あえて解釈しようとする必要はなく、ただ受け止めれば良い。彼女もそれ以上説明のための言葉を重ねたりはしない。     
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加