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やがてお囃子の音が遠ざかって周囲のざわめきが落ち着きをみせた頃、二人はキラキラした闇の中を歩き出した。そうして大通りから外れて、川沿いの道を歩き始めたころのことである。街の明かりは遠くなって、二人の周りには星影だけが落ちていた。
「旦那さん候補は中学生までに決めておきなさい。それより大人になると色んな判断ができるようになって返って選択を誤るから」
彼女が唐突なことを言って沈黙を破った。
「昔、母に言われた言葉です。わたしはあまり良い娘じゃなくて随分反抗的だったけれど、この言葉だけは守っておいて良かったわ」
「なるほど。それでオレを選んだってことか、中学生のときに。つまり今のオレの状態は、お母さんのせいだな。今度キミに何か言われてへこんだら、お母さんに文句を言うことにしよう」
彼女は聞こえない振りをした。
彼は続けた。
「旦那候補って言ったよな。それで? オレの他にキミの旦那候補になってた可哀想な男は誰なんだ?」
この不用意な一言で彼は腕を組まされることになったが、それが自業自得であることは認めるところである。組んだ腕からほのかに彼女の体温が通ってきた。
彼女はおもむろに口を開いた。
「ねえ、レイ。どうして人は人のことを好きになるの? 例えば、ここに一人の女の子がいるとします。その子は――」
「女の子っていうのはいくつくらいまでのことを言うんだ?」
「足を踏まれたいの?」
「分かった。女性は永遠に女の子だよ」
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