5人が本棚に入れています
本棚に追加
「誰も自分で自分自身のことを見ることはできない。オレはキミに出会って初めて自分が不完全だってことを知ったよ。そうして、この世に生れて来た時に分かたれたオレの半身がキミだってことに気がついた。……まあ、気がつくのに多少時間がかかったけどさ、鈍感だから許して――」
月光のように清らかな香に包まれて、彼はそのまま口を閉じた。
抱きついてきた彼女の肩がふるふると小刻みに震えていた。
彼は、その細い肩越しに彼女の背に腕を回すと、花束を抱えるようにそっと抱きしめた。
重なり合う二人の影が闇を濃く塗りつぶした。
「迷惑だったか?」
黒髪に向かって声を落とすと、彼女は彼の胸の中で首を横にした。
「わたしでいいの……?」
くぐもった声が立ち昇ってきて、彼は彼女の背に回した手に少し力を込めた。そうして静かに言う。
「むしろ、逆だな」
「……逆って?」
「逆は逆だよ。分かるだろ」
「分かんない」
その声がいかにも幼くてどうにも怪しいと思った彼だったが、しかし言い出したのはこちらであるのでどうようもない。彼は腕を解いて、彼女の頬に触れるとゆっくりと彼女の顔を上向かせた。その顔に微笑が浮かんでいるような気がしてならないのだが、暗くてよく分からない。彼は彼女の唇にそっと口づけた。
「まあ、こういうことだよ」
彼がぱっと身を放すと、彼女はすばやく身を寄せて来た。
「こういうことって、どういうこと?」
最初のコメントを投稿しよう!