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笑うのを切り上げ、男は川面に目をやり話し出す。
「まあ、乗務員口調がどうこうじゃなくて、そのあとのセリフが面白いというか、好きだったんだよね」
「どうせ忘れられるくらいなら、いっそ憎んで欲しかった」
男は一節を呟いた。
「ちょっと、やめて! 笑いが止まらなくなるから!」
女は笑いながら男の肩を叩く。
「ごめん、ごめん。そんなにうけるとは思わなかったから」
「でもさ、このセリフは名言だろ? 確か、マザーテレサも言ってたような。愛の反対は無関心だっけ」
「マザーテレサは分からないけど、確かに名言かもね」
女は優しい笑顔で答えた。
男は、ふと一息間を置いて、柔らかい顔で女に語りかける。
「という訳で、俺はあなたを忘れます。これがあなたに対する俺の復讐です」
女は笑いながら、また男の肩を叩く。
「ちょっと、これ以上やめてよね! 多分ここ半年で一番うけたよ!」
男は変わらず柔らかい顔のまま、でも幾分悲しそうに女の顔を見る。
「ごめん、本気なんだ。冗談はもう終わりだよ」
女は男の言葉にのまれる。決して激しくはない、静かだが、抗えない波に。
「ちょっと待って。全然わかんない。えーと、いきなり過ぎてさ、何て言うか、えーと、何で?」
女はまったく整理のつかない頭で、それでも何とか言葉を発した。
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