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男はそんな女を見て、優しく諭すように話し出す。
「理由はね、気がついたから。これでわからないかな?」
女は男の目を見ることができずに、下を向いたまま、ポツリと答える。
「いや、本当にわからないんだけど…」
男はため息をつき、また川面に目を移す。
夜がふけてきたせいか、さっきよりも更に風が心地よく感じる。こんな気持ちいい風に吹かれながら、する話は別れ話。でも、だから終わりにはちょうどいいのかと、ふと頭をよぎる。別段何がいいかは具体的には言えないが、そんな気がしてきた。
男はあらためて女に語りかける。
「あなたは頭のいい人だと思う。だから本当は俺の言ったこともわかってるよね」
「でも、理由は俺の口から言ったほうがいいかもね」
女は何も言うことができなかった。わからないことなどなかった。それ故に、黙って男の言葉を待つほかできずにいた。
男は意を決するということもなく、自然と確信を発する。
「いつからだい?あの男とは。二十位上かな?会社の上司じゃないかとふんでんだけどね。まあ、ありがちな話か」
女はどうすることもできずに、ただ黙りこむ。
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