廃家の姿見

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Sの顔は真っ青で、道中一人言を呟いてましたよ、『なんでねーんだよ......なんで......なんで』 あまり刺激しないほうがいいと思って、特に僕からは話かけはしませんでした。 コンビニでコーヒーを買い、表の邪魔にならない場所見つけて二人で座りました。 一服つけてSが落ち着くのを待って何があったか尋ねるタイミングを計っていると、Sの方も聞いてほしかったのか、自分から話始めたんですよね。 「浴室に入ってすぐ右手に噂の鏡があったろ、ああこれかぁ、なんて思いながらライトをあてたんだよ。手を下げた状態だから鏡の中の俺の下半身から腹あたりまでしか見えないだろ、そんで手首だけ傾けて上半身をてらしたらさぁ、......そしたら顔がねーんだよ。首から上がない。まあその時は鏡が汚れて丁度顔のあたりをぼかしてそんな風に見えただけと思ったんだ──」 Sはそこまで一気に話すと一旦言葉を切ってコーヒーに口をつけました。そして一度、目をきつく瞑ってからゆっくりと開き話を再開させました。 「ライトを鏡にあてながら、下げた腕を持ち上げていったんだ。腹から胸、首と鏡をてらすと、そこで手が止まった。やっぱり顔が映ってねえんだ。勝手に悲鳴がでたよ、そこで初めてこれはヤバイと思って逃げ出したんだ」と、そういうことでした。
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