3ファーストキスは人間をやめた味

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3ファーストキスは人間をやめた味

 俺のファーストキス体験は、全身を駆け巡る快感と、魂を吸い上げられるような不思議な浮遊感だった。 「ふああ、これが生気を吸い取る感覚かぁ。美味しかったぁ」  由芽が大好きなお菓子を食べているときのような幸せそうな顔を見せている。  それに対して、俺は膝から力が抜けて、ガクッとその場にへたり込んでしまった。 「な、なんだ、これ? 由芽、いったい何をしたんだ?」 「なにって? えっとね、生気、健人の生命エネルギーを少し貰ったの。あ、生気はヒットポイントみたいに一晩寝れば回復するから心配しないで」 「生命エネルギー……って何だよそれ。ゲームやマンガじゃあるまいし」  そうでなくとも、幼馴染みで初恋の相手である由芽にキスをされてパニックなのに、不思議な出来事と不可思議な由芽の振る舞いに振り回されている。 「私ね、人間じゃなくなったの」  そういう語る由芽の瞳が紅く輝き、俺の背中を寒気が突き抜ける。  由芽は通学カバンの中から取り出した怪しげな古い装丁の本を俺に見せる。  マンガにでも出てきそうな魔術書……といったもの。 「この本にはね、人間を辞めて不老不死のサキュバスになる方法が書いてあったの。代償は食べ物の代わりに人間の生気が必要になったことくらい?」 「サキュバスって……なに言ってんだよ? 由芽」  サキュバスっていえば、エッチな夢を見せる悪魔だ。もしかして、キスだけじゃなくて……。 「あっ、健人、今、エッチのこと考えた? 私の場合はキスだけで生気を吸い取れるんだ」 「ち、ちげーよっ! っていうか、そんな話、信じられるかよ」 「信じられない? でもさ、健人だって感じたでしょ? 私にキスで生気を吸い取られていく感じ。私もね、生気で身体が満たされていくの感じたよ。だから、私は本当に人間やめちゃったんだと思う」  由芽は楽しそうに笑っている。人間やめたとか、なんでそんなに楽しそうに話せるのか? 人間をやめるなんて判断をどうしてできたのか?  ずっと近くにいた俺に一言の相談もなく。 「本当だとしてさ、なんで、そんなことしたんだよ?」 「私ね、願ったんだ」  時間よ、止まれ。私は美しい。 「私、ずっとかわいい私のままでいたいの」
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