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5人間をやめた幼馴染が居候している
「ただいまぁ」
大学とバイトが終わって、4月から暮らし始めた1Kのアパートに帰ってくる。
「おかえりなさい、健人。お風呂にする? ご飯にする? それとも、わ・た・し?」
「……あのなぁ、由芽。からかうなよ」
同居人となった由芽が新妻ごっこで俺をからかってくる。
そう、行方不明になったはずの由芽は俺の部屋に住み着いていた。川に落ちたふりをして、こっそりと上京してきたらしい。
由芽の言い分はこうだ。
「さすがに子供の姿のまま由芽として生きていくのは難しいから、人間の由芽は死んじゃったことにしちゃった」
サキュバスになって不老不死になった由芽は中学生くらいの容姿のままだ。18歳はギリギリ言い訳できるとしても、30歳、40歳と歳を重ねていけば、いつか不自然さを隠しきれなくなる。なら、人間ではないモノにふさわしく、人間社会の理、戸籍とか家族とか社会的地位といったものから縁を切ったというのだ。
「でも、いきなり宿無しとかも怖いから、健人、頼りにしてるから♪」
最初にサキュバスになった時、俺にキスを求めてきたのと同じだった。
由芽が俺と同居しているのはそんな事情だ。
「あっと、もうこんな時間。私、でかけるね」
「今日も出会い系サイトで知り合った男とデート?」
「便利だよねー。生気を食べさせてくれる上に、普通のお金も貰えるんだからさ」
「お前、そのうち、危ない目にあうぞ?」
「平気平気、私、人間じゃないもん。鉄砲くらいじゃ死なないし、ヤクザくらいなら倒せちゃうよ」
そう語る由芽の瞳が妖しく紅い輝きを放つ。そう、由芽は人間じゃないから、それくらい不思議ではない。
「もうあってるのかよ、危ない目」
「私には危なくないし? じゃ、行ってくるね」
頭を抱える俺を尻目に由芽はでかけていった。
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