第一章

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 冴子は今、カルチャーセンターの編み物教室に通っていた。初心者コースが終了し、このまま中級コースへ移行するかしないかの手続きの中で、いつまでに申し込めば継続割引が利くのかどうか確かめるためにカウンターの女の子に問うたところ、彼女に「会員様の登録日を確認させてください」と言われたので口頭で伝えたところ、「会員カードを見せていただいてもいいですか」と言い返され、自分の言葉では信じてもらえないのかと思いカッとなって会員カードを鞄を漁って取り出した、そんなやり取りの流れだった。  なんとかその場では継続割引の申し込み期日を確認してもらうことが出来たものの、続けるかどうかは即時に判断するのが躊躇われたため、一旦はその場から撤退した冴子だったが、自分が先のように激昂したり、反射的に言い返していたりすることが、最近急に増えたような気がする。いや、気がするのではない、実際今年大学生になった息子には直に言われている。最近の母さん、余裕なくなくね? と。  なくなくないとはどういう意味かとそこにも怒鳴りたい気持ちを押さえられたのは、相手が最愛の息子だからだ。若者言葉というやつなのだろう、仕方ないと辛うじて思えたから冴子はその時、「そうお? そんなことないつもりだけど」と、言い返すだけに留めておけたが、言われてみればレジの会計の遅さにイラついたり、自動改札が電子マネーの記録をうまく読み取ってくれず「ピコンピコン」など鳴り出そうなものなら、「機械のくせにちゃんと読み取りなさいよ!」と八つ当たりしている自分が居ることに、なるほど、息子の言うことは一理あるかもと、今先程のやり取りも含め、振り返らざるを得ない冴子だった。 (これが世に言う更年期障害ってやつなのかしら?)     
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