第一章

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 今のパート先だって自分が一番に、顧客の名前と顔を覚えている自負がある。お顔を見ただけでどの商品の引き取りに来られた方かわかるくらいだ。冴子の歳でそれだけ出来たら上出来な部類だろう。  齢五十八、若くはないが、年寄り扱いはもっての他の、ピチピチな中年女性である。なのに何が不満で自分は、毎日理由のわからない苛立ちに急き立てられているのか。  翌日は今でもそんな愛称で呼んでくれるほどに、気心知れた旧知の友との会瀬だった。  一頻り互いの近況を報告し終えた後、冴子は最近の自分の不可解な感情と言行動について、彼女につい愚痴のようにこぼしてしまった。すると彼女から驚くようなことを言われた。 「いいわね、それだけの余裕があって」  余裕がないから苛立っているのだと思っていただけに、彼女の言葉に目を見開かされた冴子だった。そんな冴子に彼女は自分の体験談を話し始めた。  彼女にはすでに三十に手が届く娘が居た。大学を卒業し、ちょっと名の通った会社に就職したことまでは冴子も知っていたが、その後、そういえばあまり彼女から娘さんの話を聞いていないと思ったら、実は現在、鬱で自宅療養中だと切り出してきた。     
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