第一章

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 社会人となった娘さんは、就職一年目までは特に何事もなかったが、二年目に入った途端、やたら帰宅後の八つ当たりのような暴言や苛立った態度が目に余るようになるも、自分より後輩が出来たことで会社で辛い思いでもしているのだろうと、最初の内はそう思い娘の暴言や横暴を躱してやり過ごしていたものの、二年、三年と経つにつれ、その症状は消えていった。  二親はその傾向を、会社で徐々に余裕と落ち着きをもって臨めるようになったからだろうと思っていたが、実はその逆で、ある日、娘さんは会社に行く途中で具合が悪くなり、救急車で運ばれるほどの事態を招いたという。そこで医師に告げられた言葉は、「典型的な自家中毒です」という内容だった。  真面目な人ほど弱味を見せることが出来ず、無理に無理を重ねて、心ではなく体が悲鳴をあげるまで自分でも気づかずに、もしくは認めずに頑張ってしまう、その頑張りが限界に達したのが駅で倒れた瞬間だったのだと語る医者の言葉は、結論としては鬱病治療を勧められる形で締め括られた。  それから三年になるが、娘さんは今だ家でも一切笑わず、自分から何かをしようという意思を持たない人形のような生活をしているのだと、どうしてそんなにも長い間、親友だと思っていた自分にも打ち明けてくれなかったと問えば、身内の恥だと思ってという彼女の言葉はわからなくなかったが、やはりどうして、と思う気持ちの方が強かった。だが、彼女は涙を拭うと言った。     
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