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クラッカーを食べてしまって、手にしたお菓子のカップを考え込むように眺めていた。
こういうのはどうやってやれば、クラッカーとチョコレートが同じタイミングで食べ終えることができるのだろう。里奈はいつもチョコレートが大量に残ってしまう。
艶やかに光るチョコレートに人差し指を突っ込んで、指でくるんと掬う。チョコレートは指に絡みついて、そして残されたチョコは名残惜しそうに角を立てている。チョコレートを付けた人差し指をそのまま口に持っていくと、指を唇で咥えてチョコを舐めとった。
そこでイチの視線に気がつき、はたと動きを止める。珍しくイチが自分のペースを崩して真っ直ぐ里奈を見つめていた。
里奈がイチを見つめたまま人差し指の腹を舌でなめとっていく。人差し指だけを咥えたままイチを見て止まる。
「食べる?」
里奈は持っていたカップをイチにぐいっと突き出した。イチは持っていたシャープペンをノートの上にコトンと置いた。そして、里奈がしていたように人差し指をだしてチョコレートを掬った。そのままチョコレートでコーティングされた人差し指を里奈に突き出す。
「舐めて」
遠くで野球部の金属バッドでボールを打つ音がしている。それより近いどこかで、掛け声をかけあいながら走っていく一団が行く。
どこか遠くで、二人を残したどこか遠くで、音がしていた。
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