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教室で
里奈はじいっと食い入るようにイチを見つめていた。
二人きりの教室。落書きされた黒板に夕日が射していて、いつもと違う色をしていた。
イチは赤点をとった里奈の為に数学の問題を解いて見せてくれていた。
イチらしい、とても実用的な値の張るシャープペンシルで、サラサラと優雅に文字を生みだしていく。
真面目で、しかもバスケットボールをやらせたら学校で右に出るものは居ない。顔も悪くないし性格も温厚で、申し分ない、そんなイチ。難点を上げるとしたら、たぶん彼女の里奈くらいだろう。
里奈は毎日しっかり化粧をして学校へ行くし、スカートは勿論短く、勉強も運動もさっぱりだ。顔はきっと並より上。勉強は並より下。
イチがどうしてこんな自分と付き合ってくれるのか、不思議でならない。
「つまんない」
里奈は綺麗にくるんと上を向いた睫毛を指で押しながら、イチを急かす。
「真面目にやろう。また落とすよ」
イチは丁寧にポイントまで書き込みながら問題を進めていく。
せっかく二人きりなのに。と里奈は思う。私ばっかり好きで嫌になると口には出さずに拗ねてみる。
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