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おんなの、たたかい。
レンガ造りの壁がとろけそうだ。今にもこちらに崩れるんじゃないかと心配になる。中天に昇った夏日は騎士団を機能不全に陥れている。それに比べてここは天国だ。
盲腸のように狭い階段を抜けるとひんやりとした空気がスカートを揺らした。アデリーヌは息を凍らせながら膝より高い裾を整えた。
王都のあちこちで喘いでいるというのに申し訳ない気もするが地下迷宮の奥底に最前線が設けられている理由には正当性がある。
扉を開けるとダンスホールほどの広間があり、その奥に巨大な氷柱がぶら下がっていた。磨き抜かれた表面に青空が映っている。手をのばせば翼竜の群れに届きそうだ。
「遅いじゃない。士官学校でもそうだったの?」
祭壇の前で肌もあらわな小悪魔がふんぞり返っていた。足を組み替える度に白い逆三角形が見え隠れする。
「エースパイロットはこぉ~んなどん底に潜る訓練なんてしないの!」
アデリーヌはワザとらしく両手を広げてみせた。すると小悪魔は珍獣に出逢ったような反応を示した。
「へ~え? 将来を約束されたエリートさんが末席から墜落して迷宮勤務なんて、どういう風の吹きまわしかしら?」
虐め抜かれたアデリーヌは安っぽい煽りには折れない。
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