破戒僧の火遊び

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破戒僧の火遊び

司祭バウチャーの庵は切り立った断崖の頂上にあった。ささくれた板と石を積み上げた粗末な造りで、雨露をしのげるかどうかも疑問だ。 鳥も通わぬ高みに彼が居を構えた動機は宗教上の理由でも厭世観からでもなく、個人的な野心に由来している。 広い世間を俯瞰してみれば、浮世の動きが手玉に取れるというわけだ。バウチャーが篤志家の仮面を被った俗物であることは周知の事実だ。 じっさいに彼は油田のごとく湧き出る金脈を持っており、一切の寄付を募らずに社会福祉を手広く行っている。 歩く産軍複合体という黒いあだ名もある。 その汚れた御殿を正義の眼が監視している。 ソネット=アデリーヌ組のワイバーンは破戒僧の尻尾を掴めと命じられて、一週間近く目を光らせている。 もちろん、四六時中というわけではなく、16時間のインターバルを含む三交代制だ。彼女たちの龍が翼を休ませている間は別のチームが引き継ぐ。 「週三徹夜はお肌に響くのよね」 アデリーヌが魅力(チャーム)の魔法をかけ直すと、眼のくまが気休め程度に引いた。 彼女のぼやきなどお構いなしにソネットが仕事に集中している。 「おーおー。絶景かな絶景かな」     
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