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なんだか彩香とのやり取りを楽しんでいるようにも見えた。
「こんないい女がいるならもっと早く教えろよ」
同級生のいじめっ子相手にそう言うと、頭を小突かれた彼は苦笑いを浮かべていた。
逃げようともしない彩香を見て、その気があると思ったのだろうか。
また顎に指を掛け、彩香の顔を持ち上げた時、社の方から石が飛んできた。
その石は吊り下げられていた提灯に当たって、ひとつ火が消えた。
「こんな神聖な場所で盛ってんじゃねーよ。言っとくけど、今、パトロール呼んだからすぐ来るぞ。うちの親父、今日はこの辺の担当だから」
全員の視線が社へと向くと、彩香もその声の方へ視線を向ける。
「少女漫画ならアレだな、あんたら悪役で、俺がヒーローってとこか?」
視線の先でかわいらしい顔をした男の子がそう言って笑っていた。
それが五十嵐の存在を知った日───。
アイドルみたいに可愛い顔をして、笑うと見える八重歯が印象的だった。
本当に、少女漫画ならここから恋が始まるのだろう。べたな少女漫画だけど。
五十嵐の姿を見た不良達は、「お前かよ」と、言いながら、彩香から手を離し、少しずつ離れていく。
「お前なんかどうでもいいけどな…お前の親父に目ぇつけられると面倒なんだよな」
長髪の男はそう言いながら、仲間を連れて彩香から離れていった。
「お前、名前なんだっけ?」
離れていく男が彩香を見て訊いた。
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