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これは…名乗るべきなのだろうか……。
やはり人と接触する機会の少なかった彩香には、そんな簡単なことも分からなかった。
まあ、名乗っても名乗らなくても、同級生に聞けば分かってしまう事だ。
「神藤……」
言い掛けて、五十嵐に手で口を塞がれた。
「アホか、お前は」
耳元で囁かれ、背筋が凍り付くのを感じた。
「言っとくけど、コイツの親父の方が面倒だぞ。大学病院の教授らしいからな」
そう言われたらどいつもこいつも怖気づいて逃げ出した。
彩香は五十嵐の事を知らなかったのに、五十嵐は彩香の事を知っていた。
塞いでいた手を離されると、女の子みたいに可愛らしい顔に見とれた。
「なんか…想像と違って引くな……。お前、病弱だって聞いたけど、ただのバカなのか?」
初めて会った日から、五十嵐は彩香の事をアホとかバカとか言っていた。
「あなたは?名前……」
「一応、同じクラスなんだけどな。そこまで無関心だと、助けた甲斐もねーな」
そう言いながら、五十嵐は名乗ることなく去って行った。
あの日以来、謎の男の子が気なって仕方なかった。
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