587人が本棚に入れています
本棚に追加
電話を掛けながら、また事務所を出て店内へ。
何度か掛けてみたが、野本がなかなか電話に出ないから、やむを得ず五十嵐に電話を掛けた。
五十嵐もなかなか電話に出てくれなかったが、諦めかけた時にスピーカーの向こうから五十嵐の声が聞こえた。
『悪い、今ちょっと立て込んでる……』
五十嵐の声の向こう側は騒がしく、何か事件に追われているのだろうと気付いたが、そうも言ってられなかった。
「店内で瓶に入った眼球が見つかったの」
彩香がそう言うと、五十嵐は『チッ……』と、舌打ちした。
『すぐに行くから現場保存して。客は帰らして。で、帰る客の写真とか撮っておいて』
そう言った後、電話を切る前に、
『市内のあちこちで人間の体の一部が入れられた瓶が発見されてる』と、告げた。
どうやらこの店だけで起こっている事件ではないようだ。
「分かった。とりあえず言われた通りにするね」
そう言って電話を切った後、人垣を抜けて日下部店長に歩み寄り、簡単に今後の事を説明した。
普段は腰の重い社員たちが、店長に指示されて慌てて走り回る。
数秒後、日下部が店内放送を掛けて閉店のお知らせをしたが、なかなか客は店内から出て行ってはくれず、従業員が必死で声掛けを行い、出口の方へ客を追いやっていく。
まるで羊飼いみたいだな…と、思いながらその様子を横目で見て、彩香は周囲を確認する。
従業員も近づかないように簡易のロープを結んで侵入を禁止したが、実際、カメラから死角になる位置に置かれた瓶が、いつ、誰の手によって置かれた物かは分からない。
最初のコメントを投稿しよう!