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市内のあちこちで見つかっているという事は、人間の身体を細かく刻んだ…と、いう事なのだろう。
それが1体か2体か…はたまた、10体か……。
瓶の中の眼球をロープの外からじっと見ていると、翔が近寄って来る。
「しばらく営業無理だよね……」
その顔を見ながら、ここ最近、店が繁盛している理由の見当がついた。
ついこの間、テレビで市議会議員を追求した翔に対し、全国ネットの取材依頼があった。
もちろん翔は取材を受け、放送もされたわけだが、あれ以来、翔の周りが随分にぎやかだった。
おそらく、夏休みである事と、外の暑さ、それから、翔人気が来客数増加の原因のようだ。
「市内のあちこちで人間の体の一部が入った瓶が見つかってるって……。なんだか複雑。殺された人がいて、営業できなくなった店もきっとここだけじゃないって事だと思うし……」
殺された人が悪いのではなく、犯人が悪いわけだが、店舗の人間にとっては営業ができない事が問題だ。この際、誰でもいい。悪者に仕立て上げて怒りをぶちまけたいと思うだろう。
「数か月前には爆弾騒ぎもあったでしょ?ホント…どうなってんの、今の日本は」
翔も数ヵ月前にクレーマーがイタズラで掛けてきた電話を思い出して両腕を組み、頬を膨らませる。
殺人事件の発生率は以前とそれほど変化はないと言われるが、メディアへの露出を考えれば、認知度の上昇は間違いない。
世間がそれを知っているか知らないか…と、いうだけで、事件は毎日起きている。
有線放送を切られた店内に無数の足音が聞こえてくると、自然と二人の視線はそちらに向いた。
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