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五十嵐が鑑識官を率いて店内を歩いてくると、彩香の前で立ち止まった。
「本当に事あるごとに問題が起こる店だな」
そう言って腕を組んだ五十嵐の背後で、見知らぬ鑑識官たちが手早く作業を始めた。
「あの…それはそうと、あれはホンモノ?」
彩香が邪魔にならないように端によけながら、そう訊いた。
五十嵐に電話を掛けたはいいものの、実はずっと気になっていた。精巧なニセモノなのではないかと。
今の若い人たちはハロウィンで特殊メイクを施すような器用な人がいるくらいだ。眼球の偽物を作ることもできそうな気がするのだが……。
そう思っていると、一人の男性が瓶の中を覗き込みながら話し始めた。
「ホンモノですね。遺体の処理方法も雑です。眼球を強引に抉り出したみたいです」
眼鏡を掛けた若い男性……。鑑識官としてもそれほどキャリアが長いとは思えない。
色白で細い彼は、頬もこけて、今にも貧血を起こしそうなくらい虚弱体質に見える。綺麗ともかっこいいとも言えないが、儚げな感じがするから、どちらかと言うとモテる部類なのだろうか。
「遠藤、その液体はホルマリンか?」
五十嵐が訊くと、彼は少し離れた場所から、クンクンと匂いを嗅いだ。
「さほど濃度の高くないアルコールですね。焼酎かなんかだと思いますが」
梅酒じゃあるまいし、なぜ眼球を酒に浸けたのかは謎だが、おそらくその理由の一つは死体の独特な臭いを隠すためだったのかもしれない。
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