≪プロローグ≫

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 しかし体の細さには、目を見張るものがあった。半袖のシャツから出ている腕は、どこまでも細く白くあり、首もよくそれで頭が乗るものだと思うくらいに細く、しかも長かった。  しかし彼の顔は体に合わせて小さく出来ていたから、違和感なほどではなかったが。  くせのない茶色の髪が耳が被るくらいに長く、中央から左右に分けられている。見える範囲での肌という肌は全くの白。柔らかげな白い肌はやたらしなやかで、見た目以上に恐らく彼は健勝に違いない。  顔立ちや体付きの覇気の無さを補ってなお、そんな印象を抱いた上総だった。 「それで、英二さんはうちにどんなご用でいらしたの?」  再び口を挟んできた早苗に、英二は大きく目を見開くと言った。 「あれ? 訊いてない? ってことは荷物も届いてないのかな?」 「荷物?」  上総と早苗が異口同音に言うと、 「届いてないんだね……」  落胆げに言いはしたものの、しかし英二は少しもダメージを受けている様子も無く、むしろそれは予期されし事態として、諦観と共に受け入れている、と言った感じだった。  だがこちらはそうとはいかない。荷物だの話を訊いていないかだの、どういうことかと無言に説明を求めた上総に気付いてだろう、英二は二人に正しく向き合うと、改めて言った。 「静養を薦められてきたんだ」 「静養?」  またしても異口同音に反応した上総と早苗だった。それに対し英二は軽く頷くと、 「母に言われてね。なんでも本家は昔から、体の弱い子等の療養を受け入れていたとか」  それは一体、何世代前の話だ。今や形だけの本家となっている、自分と早苗だけが済むこの家を振り仰ぎ、率直に答えてやった。 「そんな話は昔から、というよりすでに昔の話、ですよ」  上総の言葉に英二も悟り、 「今となっては迷惑なだけだと?」  英二の反論に、上総は肩を竦めて事実を述べた。 「迷惑というより、そんなお持て成し自体が出来ないので、諦めてくださいと言う他、ありませんね。本家と言っても住んでいるのは、今や俺と妹しかいないわけですから」  通いの家政婦がいたのも昔の話だ。ついでにそんなことも思い出しながら、上総は英二に説明したが、英二はそれでも笑顔を崩さなかった。 「うん、それは承知の上だったよ。でも君達は現にこうしてここで暮らしているのだから、僕もここで生活出来ないとは思えないんだけど」
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