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≪シーン・5≫
「びっくりしたなぁ。なんてとこで寝てるんだい、上総くん。どうせ寝るなら北側の縁側にすればいいのに。わざわざ陽の当たる方を選ぶなんて、普通しないぞ」
小林は廊下を闊歩して上総の側までくると、手にした灰色の帽子で胸元を仰いだ。白いワイシャツが汗に染まっている。
「早苗ちゃんは?」
小林は開け放たれたままの続き部屋から奥の台所を覗き込み、言った。
「早苗なら畑に出てるよ。ところで小林さん、来る時は事前に連絡くださいって、前にも言ったよね?」
上総は縁側から立ち上がると、小林を後ろに連れて台所へ向かった。
「あぁ、ごめんごめん。今朝になって急に暇になったもんでね。気が付いたらここに向かってたよ。夕方までには失礼するから構わないでいいよ」
「そういう問題じゃなくてさぁ……」
上総は言い返したものの、ペースはすっかり小林のものになっているのを認めないわけにはいかなかった。
上総は小林のこういうところは、とても弁護士らしくないと思っている。弁護士というものはもっと時間や約束に厳しく、使う言葉ももっとぴしっとしているものではないものだろうか。
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