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それとも裁判ではきちんとしているのか、はたまたその場でもこうして自分のペースに持ち込むのがうまいのか───。
とはいえそもそもが小林の外見をして、まず弁護士だと思う人はいないだろう。なぜなら。
「小林さん?」
冷蔵庫から麦茶の瓶を取り出そうとしていた上総の背に、早苗の声が響いて届いた。裏口から入って来たのだろう、台所から続く居間に腰をおろしかけていた小林は、中腰のまま、早苗にも挨拶を返した。
「やぁ、早苗ちゃん。久し振りだね。先月は来れなくって申し訳ない。実は今日もあまり時間がないんだ。夜に人と会う約束があってね。まったく、早苗ちゃんの手料理を二ヶ月も食べられないなんて、小父さんは悲しいよ───」
半ば独り言のような小林の喋りを聞き流していた上総だったが、その語気が途中から変わったことに気づき、そっと小林に目をくれた。そこには戸惑い顔の小林が居た。そんな彼の目線の先を辿ると、そこには英二が立っていて。
「たぬきだ……」
「え?」
目を丸くして立ち尽くしたまま呟いた英二に、小林が聞き返したが、とうもろこしを山積みにしたカゴを両手で抱えていた早苗が、ふらっと英二の方へよろめきその足を強く踏んだ。
「いたっ」
「あ、ごめんなさい、英二さん。足踏んじゃって。大丈夫? 本当にごめんなさい。ちょっとバランスを崩しちゃって……」
言いながらとうもろこしの乗ったカゴを抱え直した早苗に、上総が慌ててそれを受け取ると、笑いを噛み殺した顔でそのカゴを台所の調理スペースへと置いた。
「ありがとう、お兄ちゃん」
早苗の礼に、
「代わりに小林さんにお茶出してあげて」
「うん。あ、英二さんも居間の方へどうぞ。手はそこで洗ってくださいな」
「え、でも僕は別に見ていただけだから───」
「洗って」
「……はい」
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