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早苗は早苗で入り難い話になってしまったその場を払拭するかのように、小林さん、と呼び雰囲気を変えた。
「せめてとうもろこしだけでも食べていきませんか? 今年のも美味しいですよ。ね、英二さん。皮むき、手伝ってもらえます?」
早苗の機転に感謝の念をくれ、小林は再度、上総に問いた。けれどもそれは先とは全く逆の意味を含んでいた。
「あの英二くんとやらが来てからは、二人はいつもあんな感じなのかい?」
「あんなって?」
「いや、つまり、その……」
上総は小林の都合良い解釈に、肯定も否定もくれず、ただ事実だけを口にした。
「別に、あれ以上でも以下でもないとしか。顔見知りの早苗にしてはずいぶんと英二には気を許してる方だとは思うけど」
「それはやっぱり英二くんがはとこだからかな?」
「……さぁね」
上総はわざと間を空けて答えた。が、そんな抵抗は意味無かったかもしれない。どうやらすでにこの空間も、小林の術にはまっているいるようだ。
上総は舌打ちしたいのを堪えて、小林の言葉をただ待った。
「上総くんは英二くんのこと、どう思ってるんだい?」
「なんか関係あんの、それ」
「深い意味はないけど。でも今まで二人で暮らしてきてた君達が、三人での生活に切り替わったことで何か変化があったんだったら、一応保護者としては把握しておきたいかなって思って」
「仲良くやってるって言ったじゃん。別に問題も何もないよ」
「そういう総体的なことじゃなくてね……」
小林が本当に訊きたいことがなんなのか、本当は上総も判ってはいた。けれども素直に答えるにはいかない、というのが上総の本音だった。
小林が少し言葉を探しているようだった。台所に立つ早苗と英二の背中を見ながらただ何も考えないようしていた上総に、「肝心なことを訊き忘れてた」と小林が不意に言った。
「ところで彼───英二くんは、いつまでここに居るのかな?」
言われて上総も初めて、そういえば、と気が付いた。なので。
「知らない」
正直に答えたら、小林の突き出た腹のおかげで座卓が少し動いた。
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