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「じゃあ今日はここの歯を少しだけ削りましょう」
先生はいつも通りキリッとした目付きで、今日治療する歯の説明をする。
銀色の治療器具がガチャッと音を立てると、
「じゃあ口を開けてください」
先生の言葉に目を閉じ口を大きく開けた。
小さな虫歯だから麻酔なしでも我慢は出来るんだけど、早く終わって欲しいって気持ちは変わらない。
キイーンキイーン、ガリガリガリガリという音が止み、口をすすいだ後は何か薬みたいのを塗られるわけなんだけど。
……あーっ、もう口閉じたい!
開けっ放しの口が疲れてきていた。
……あ、ちょっと待って。
このバカみたいに口をガバッて開けてるマヌケ顔、先生ずっと見てるのかな?
それ、恥ずかしくない?
急にそんなことを考えてしまった。
私だって人並みにいう年頃の女の子だ。
こんなマヌケな(だと思う)顔をイケメンに見せていると思うと、恥ずかしいような可笑しいような、何とも言えない気持ちになって笑いそうになってしまった。
だから「はい、終わりましたよ」と先生から言われてホッとした。
「それでは次は─」
先生は淡々と次回治療の歯について話し出した。
なんかズルイの。
こっちにばっかりマヌケ顔させておいて。
見たいな。
先生のマスクを外した顔。
どんだけイケメンなんだろう?
そんなことを考えながら、私は笑顔で「はい」と返事をしていた。
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