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だって。そんなに神経質にならないでざっくりでも結構味決まるよって言ったのに。どうしてもそれだけはわたしにやってほしい、って怖気づいたエニシダさんに懇願されて。結局は手を出さざるを得なかった。
「でも、衣つけて揚げたのは縁田さんじゃん。揚げ加減大事だよ。上手くいかないとべたってなっちゃうもん。これはちゃんとからっとしてる。初めてでこれならすごいよ」
「すごくはないけど。そばについて見ててくれたから」
目線を落としてぼそぼそと呟く。なんか悪いことでも言ったのかと思うくらいの反応だけど。どうやら照れてるらしい。
「まあ、自分でも意外とできたかなって思うのは確かだけど。ほとんど君に見てもらってだからね。自分ひとりだったらこうはいかないよ」
「それはいいんだよ、少しずつで。わたしだって最初はずっと長いことお手伝いだけだったよ。いきなり一人で何でもやろうって気負わなくていいと思う。それはゆっくりいきましょう」
笑って返しながら、ゆっくりって言っても。わたしはいつまでこうやってここにいられるのかな、とふと思うとやっぱりどこか焦燥感がつきまとう。
勿論わたしとこの人は基本ビジネスの関係だから。家政婦と雇用主、それ以上ではない。だからもし万が一わたしが結婚とかしたって、それでどうにかなるような間柄じゃないはず。理屈の上では。
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