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そのことを思うとぎゅうっ、と急に心臓が締めつけられるように動いた。こんな日ももう、あと何回、いつまで続くかわからない。エニシダさんと猫たちとの、穏やかで何でもない日々。
それに毎日は勿論、例えわたしがレギュラーの通いの家政婦を続けたいと思ったって案外彼の方が嫌がるかも。青山くんと結婚したわたしを疎ましく思って、裏切り者みたいに遠ざけられる可能性無きにしも非ず。
そこまで極端な反応じゃないにしろ、絶対どこかぎくしゃくはするだろうし、今まで通りではいられなくなるだろうなぁ。どういうわけかわたしに寄せてくれた信頼も、自然と薄れてどことなく距離を置かれるようになるかも。
わたしはそこまで考えてやけくそ気味に美味しい唐揚げを口に放り込んだ。そう考えるとやっぱり入籍なんか無理だよね。本来自分で何とかするべき滞納したもんを、結婚相手に肩代わりしてもらうってのも正直抵抗があるし。
しかしかといって。今の苦境を脱するために、ぶっちゃけた話それ以外の目覚ましい妙案が一つでもあるでもなく…。
「あ、つっ」
「大丈夫?いきなり一口で丸ごと頬張るにはちょっと熱いよ、まだ」
子どもみたいに心配された。不覚。
「落ち着いてゆっくり食べよう。まだたくさんあるから。…あれ、なんか鳴ってる。もしかして、向井さんの携帯じゃない?」
「うっ、本当だ」
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