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ぼそぼそと必死に弁明し、とにかくも電話を切るとさすがに不審げなエニシダさんが自分の席からこっちを見上げていた。
「…何?どうかしたの、こんな時間に」
特にそんな遅いってわけじゃないけど。まあ、夕飯時は夕飯時だね。わたしは努めて何でもない顔つきであっさりと言い切った。
「別に大丈夫。…あの、ライターの仕事。久しぶりにちょっと、入ったから。その…督促」
「ああ、そうなんだ。よかったね」
彼の表情が明るくなる。その微かな精一杯の変化を感じてどこか後ろめたい。
「ちゃんと本業も頑張ってるんだ。忙しくなったらここへ来るのも負担になっちゃうかな」
「それはないよ。まだまだお試し程度、ほんのちょっとだし。そこまで急に仕事が増えることないよ」
「うん」
素直に頷いて黙ったけど。
彼は彼なりにこの関係の終わりについて思うところがあったのかもしれない。例えばわたしがいつか本格的にライターとして忙しくなって、家政婦の仕事を続けられなくなるとか。そんなイメージをありありと想像でもしたのか、微妙に離れがたい様子でその日は久しぶりに家まで送ると言い張った。
「もうこいつらも少しの間なら留守番できると思うよ。それに本当は、不審者もまだ捕まったわけじゃないんだよね。それなのにここのところ一人で歩かせて、悪かったと思うけど」
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