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部屋の前まで送る、と強く主張するエニシダさんを特に拒む理由もなかった。以前も心配だから、といつもそこまで送ってもらっていたし。深く考えずにわたしの部屋があるフロアまで一緒に上がった。が、そこで視界に入ったものは。
「…う、っ」
背後を歩くエニシダさんの方を向いてごまかす間もない。自分の部屋の扉に貼り付けられた紙が煌々とした廊下の明かりの下でやけに目立っている。慌てて駆け寄り、さっと引き剥がした。
「何ですか、それ」
「別に。なんでもない。…多分」
碌に検めもしないで外して畳んだわたしの振る舞いに何か不審なものを感じたらしく、軽く流そうとしても納得しておさまる様子はなかった。
「ちょっと。見せて下さい、それ」
容赦なく手を伸ばして手渡すよう要求してくる。わたしは往生際悪く出し渋った。
「なんでもないよ…って。言ってるのに」
「さっき、ちゃんと読んでた様子なかったですよ。なのにどうして何でもないって言い切れるんですか?」
それは。
その前に既に電話で直に話してるから。見なくても大体、どういう内容かわかる。…かな、と。
わたしは声を抑え、早口に説明した。むきになって隠し通すことでもない。でも、近所に聴こえるのはちょっと勘弁だ。
「いやあの、管理会社から。ちょっとその、ここ数ヶ月家賃が…、上手く工面できなくてさ。ちゃんと支払って下さいって連絡。つい他のこと優先してたら。こんなことにね」
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