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「だったらそんなに恐れることない。恋愛体質かどうかなんてこの歳になったら自分でも大体判別できてるだろ。誰でも必ず盲目的な感情に振り回されるってわけじゃない。だいぶ個人差があるじゃん、そこは。…俺ももう三十五だし、今更そんなもんがいきなりやってくるとは思わない。それに、そんなぽっと出のわけのわかんないその辺の女なんかに較べたら向井の方が大事なのは変わんないよ。新しい恋に走ったりするよりお前が俺のそばでちゃんと幸せになるのを見届ける方が断然いい」
「…そう、ですか」
実に反応に弱ることをけろっと何でもないみたいに。こいつ、よくそういうこと平気で言えるな。
気楽な口調であっさり言われるから普通のことみたいに一見思えるけど。よく聞くとこれ、結構畏れ多いこと言われてないか?
てか、相手が青山くんだから何となく聞き流しちゃってるけど。普通に考えたらこれだって愛の言葉って言えなくもなくない、かも…。
そう思ってつい横目で伺うけど、鼻歌でも歌いそうな様子で気楽にぶんぶんとトートバッグを振り回してるその態度。自分が愛を打ち明けてるといった感覚は微塵もないようだ。わたしは内心混乱する。そうすると、それはわたしの思い違いってことか。多分言葉通りじゃない、何か全然違うことを示唆してたのかな、今のは?
青山くんの気持ちがよくわからない。彼の言うことをそのまま鵜呑みにして、その好意にただ甘えていいとはどうにも思えないんだけど…。
彼には彼の大切な一度きりの人生がある。それをわたしみたいなもんが自己責任で苦境に陥ったのを助けるために、適当に使っちゃっていいの?
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