0人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、でも小川の岸辺に庭師のロネットがこの町までの船渡しをしてくれたから、そこまでは一人じゃなかった」
「その庭師にはなんと言って、ファッサードへ訪れたいと伝えたんだ?」
「……なんでだろう。でも何故か、来なければいけない気がしたんだ。この町で一番の『踊り子』を観に来なければと……」
「この町、一番の踊り子?」
それなら今は確かにサウザなので、この小屋に見物に訪れたというのはわからなくはない。だが。
「踊り子が観たかったって、やっぱりあんた──」
「リズ」
彼女の先走りにサウザは制止をくれると、少年に選択肢を焚き付けた。
「おまえの目的がそれだけだったなら、もう達成されただろう。早い内に帰った方がいい。まだこの町が完全に眠りから覚める前に。そしてその程度の好奇心だったなら、もう二度と来ない方がいい。その方がおまえのためだ」
「僕の、ため……」
サウザの言葉に一際大きく反応してみせ、途端、顔色を真っ青に変えた少年に、すかさず手を差しのべたサウザ。そして少年を樽のように担ぎ上げると、「こいつを送ってくる。その間、小屋を頼む」とリズに告げ、小屋の裏口から少年の言っていたと思われる川岸伝いに歩くと、例の『庭師』らしき人物を見つけたサウザは、ロネットという名を確認し、すっかり気を失ってしまっていた少年を引き渡した。そして言った。
「まだどうしてもこっちに来たいと言った時には、俺の小屋の裏口からこっそり訪れるよう伝えておいてくれ」
先は危険だからもう来るなと言ったものの、それで本当に来るのを止めるようでれば始めから来る必要はなかったはず。この少年は何かを求めて、身を偽り、自分達の前に姿を表した。
その理由ならサウザも聞きたかった。この少年が本当に、デルニアに血を継いだ子であるなら──。
最初のコメントを投稿しよう!