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《語られる過去》
今から数えてちょうど二十年前。ファッサードの町一番の踊り子として名高かった「デルニア」という少女が居た。少女から女性へと変わりつつある変容期ならではの魅了さえ武器にして、誰よりも喝采と称賛を浴びていた聖女、デルニア。
彼女は当時、まだ幼かったサウザやリズも家族ごと属していたエイハル一座の看板娘であり、そして本当に座長の娘であったが、そんな贔屓を必要としないほどに、歌も躍りもなんでも人数倍に長けた、まさに神の申し子と謡われていた。享楽だけがこの町を潤わす生き水だとしたら、彼女を中心とした土壌は最高の品質を保っていたと言っていいだろう。貴族の間でも評判となった彼女の周りには、人が絶えることなかった。
褐色の肌に黒く長い髪、そして水晶のように澄んだ碧眼の少女──デルニア。見た目の美しさだけでなく、その美貌に見会う躍りや歌や舞いに誰もが心酔し、よって彼女は誰のものになるでもなく、自由に歌い、躍り、舞っては、自身も特定のパトロンをつけることなうエイハル一座を盛り上げていた。が。
ファッサードとスーザとナミルヤ、三つの町からなるこの小さな島から、泳いでもわたれる距離に繋がる大陸には王政の国があり、そこに住まう貴族共の享楽場としても栄えていたので、人によっては貴族の妾などに娶るられることもあったが、デルニアほどの実力を持った者を独り占めするような人物が現れようものなら、一座の威信にかけて打ち払う、そうに違いないと誰もが思っていた中、デルニアは一人の王公貴族に連なるらしい人物に拐われるようにしてファッサードの町から取り上げられてしまった。
住民のほとんどがその事実に対し、怒りと侮蔑をエイハル一座に向け、誰もがエイハル一座を見捨て、エイハル一座はそのまま没落してしまった。それくらい『絆』が物を言う町だったというのもある。命を賭けてでも仲間を守る、それが出来ない連中を仲間とは見なせない、ということだ。
けれども当時、エイハル一座で寝食を共にしていたリズやサウザに言わせれば、あんなテロ染みた誘拐に立ち向かうことなど出来なかったと言ってはエイハル一座を守ろうとしたが、その願いはどこにも届かなかった。
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