---

5/6
前へ
/6ページ
次へ
「ほれ、もう油も煮立っておる。素直にテンプラにならんか」 ぼくは今一、納得ができなかったけれど、仕方ない。 海老であることがテンプラになる理由となるのなら、そういうものなんだろう。 ぼくは大人しく、カラリと揚がった。 「揚がりましたよ、長老」 「うむ、ご苦労」 本当にご苦労だ。テンプラになる労力は、テンプラを食べるそれの比じゃあない。 確かに、こんなのは長寿の象徴でもある海老でなきゃ、耐えられないだろう。 「あっつ……すみません、(これ)もう脱いでもいいですか?」 「ああ、すまんの。その辺に置いておいてくれ」 ぼくはサクサクの衣を脱いで、ハンガーラックにひっかける。 多少衣の欠片が長老の服につくかも知れないけれど、美味しい衣だ。長老だって文句は言うまい。 ぼくは溜息をついて、長老宅を辞した。 「あーあ、蛋白質が変性しちゃってる」 自分の身体から、美味しそうな匂いまでしてきた。最悪だ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加