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口を尖らせた澄彦さんはいじけて足元の小石を蹴った。
私は万歳のままの姿勢で澄彦さんの前に立って、そのまま澄彦さんに抱き付いた。
深呼吸すると煙草の匂い。お父さんと同じ煙草を吸っている澄彦さんの匂い。
「えっ!?」
「比和子!」
「ありがとう、お義父さん」
「……狡い。狡いよ、比和子ちゃん。でも、ありがとう。……光一朗の分も僕に甘えるんだよ? 家出だっていつでもしていいからね」
澄彦さんはそう言って私を強く抱きしめる。
「息子はどうでも良いけど、やっぱり娘は可愛い」
少しだけ涙声で澄彦さんはそう呟きながら笑った。
そしてその後ろで澄彦さんを引き剥がそうと石段から立ち上がった玉彦が見えた。
このあと成敗と称して親子喧嘩が勃発することが予想できたけど、私はそのままでいる。
私に再び家族と呼べる人たちがここにいる。
玉彦も澄彦さんも。
稀人のみんなも私の家族なんだ。
正武家という名の下に揺るがない絆が出来た。
もう二度と失わないために、私は流れが視え始めた次の段階へと進み始める神守の眼を静かに閉じた。
ちなみに後でそのことが澄彦さんにバレて、賭けはいかさまだと指を差されたのは言うまでもない。
この眼を利用して宝くじでも買おうかと本気で迷った私に対して、罰当たりなことを考えるなと玉彦は呆れた。
⇒私と玉彦の正武家奇譚へ続く
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