いずれ訪れるその時

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 いつも、そうだった。  同じタイミングで柏手を打って戻るのに、私だけ現実で目覚めるのが遅い。  数秒から数分ほどのズレが殆どだったけど、今回はかなり異質の眼の力だったようで玉彦より十日間も遅れて目覚めた。  私の記憶が正しければ昏倒したのが三人の七月に行われた四十九日の日。  目覚めたのは十月初旬。  約二か月間私は正武家の本殿に寝かされていた。  人間が飲まず食わずで二か月。  普通なら栄養失調で餓死をしている。  病院で点滴などを受けていれば延命は可能だが、私にそれらは施されなかった。  自分で自分に神守の眼を使った状態だったので、なんていうんだろう。  人知の及ばない力に依って動きを止められた私の身体は、本当に時が止まった状態だったのである。  眠っている私の身体を動かすことは出来るけれど、反応はなく。  体温は平熱のままであったことから死んだと判断されず、誰も立ち入ることのない本殿で管理されていた。  いつ目覚めるのか、そもそも目覚めるのかも判らない状況で、玉彦は時間の許す限りずっと私の側で正座し、目を閉じたまま過ごしていたそうである。  食事とお役目と。必要最低限の生活時間以外はずっと。  その光景を思い浮かべて、迂闊に玉彦よりも先に死んではいけないと思うのだった。
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