いずれ訪れるその時

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 十月。  縁側に座り、小春日和の穏やかな日差しが身体を包む心地よさに、自然と瞼が下りる。  ぽかぽかという言葉がピッタリだった。 「座ったまま眠るとは、また器用なことを」 「……起きてるよ」  いつもより少ない午後のお役目を終えた玉彦が濃紺の袷の姿で隣に腰を下ろした。  それを見て、もう秋なんだなぁと思う。  初夏に仕立てたはずの私のものは来年までお預けになってしまった。 「お散歩に行きたいなぁ」  澄み渡る空を見上げて呟く。  ずっとお屋敷から出ることがなかったので、季節の移り変わりは庭の花と遠くに見える鈴白の山々でしか感じることが出来なかった。  石段を降りて、小道を歩き、少し進んだその先に。  彼岸花が群生する野原があったはずだ。  あそこは今、どうなっているだろう。  初めて玉彦と訪れたときのように、咲き乱れているだろうか。
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