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「父上は離縁した母に逢いに行っている。溺愛して他の男を近付けさせぬようにしている。息子の俺でさえだ」
「そんな……」
「父上の好きな女とは女性一般ではない。妻だけという意味だ。だから以前比和子を妻にすると宣った時は、皆本気で焦った。母が死んだのかと」
玉彦は襦袢の腰紐をいじいじしてずっと目を伏せている。
言い訳をする子供のように見えてくる。
「正武家の男は相手を愛して一度身体を重ねてしまえば、他にはゆかぬ。その女性が自分の拠りどころであると決めて、役目に臨む。だから神々は同情したのだ。正武家には嫁や婿は長く居着けない。愛し合っているのに、離れ離れになる定めだから」
「それは、惚稀人ではないからでしょう?」
「違う。白猿の時に惚稀人の根底が崩された。居着けないから苦肉の策で惚稀人が出来たのだ。居着けないのは産土神のせいではない。正武家の業のせいだ」
「……うーん」
「それに」
「それに?」
「これは男としてあまり言いたくはないが」
「じゃあ言わなくていいわよ」
「いや、知っておいた方が良いだろう。一度しか言わぬ。……比和子以外では勃たぬ」
「は?」
「……比和子を抱いたあの夏から、他の女性が裸であっても反応はしない。比和子を拠りどころと定めたからだ。これは惚稀人という存在を産土神が認める代わりに正武家に課せられた……呪い……いや、約束事だ」
「あ、そうですか……」
言った玉彦も赤くなってるけど、言われた私はもっと赤くなる。
そんなの、あからさまに告げられても困る。
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