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でも、待てよ。
玉彦は月に一度だけ冴島月子に逢っていた。
それ以外は私と週末を過ごしていた。
それはもう金曜の夜には嬉々として私に逢いに来て、月曜の早朝には泣く泣く帰る程に。
愛する者しか抱けなかったら、これは何とも奇妙な話だった。
毎週末私と夜も共に過ごしていたのは理解できる。
でもじゃあ、冴島月子とは?
冴島月子とプラトニックな関係で心だけ繋がっていたとしても、翌週には私と過ごしていたのだ。
月に一度だけ綺麗さっぱり私を忘れて、冴島月子に逢い、そして今度は彼女を忘れて私に逢っていた?
いやいやいやいや。
そんな器用な真似が出来るほど、彼が腹黒いとは思えない。
この、自分の感情に鈍感な玉彦が。
私は玉彦が言うように、何か勘違いをしているのだろうか?
「とりあえず、わかったわ。うん」
「では以前のように、過ごしてくれるのか?」
「……努力する」
「努力を必要とするのか……」
玉彦はがっくりと項垂れて、腰紐が手から落ちた。
その落胆ぶりに、私は苦笑する。
この世界では感情が素直に出る。
どんなに取り繕ってもそうなる。
「今は、私だけなんでしょう?」
玉彦は俯いたまま、頷いた。
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