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一瞬にして意識が戻れば、いつの間にか玉彦に抱きかかえられて廊下を移動していた。
「あ、玉彦……」
「目覚めたか。大分身体が冷えてしまった。春とはいえ、まだ夜は冷え込む」
「うん……」
私は大人しく玉彦の胸に頬を寄せた。
もう、いいや。
とりあえず玉彦がここにこうしているだけで。
私が何か勘違いをしているとして、いつか機会を改めて真正面から玉彦にきちんと確かめてみようと思う。
きっと玉彦のことだから、嘘や取り繕うことなどせずに本当のことを答えてくれるはずだ。
二人の部屋に戻って、玉彦は先に敷いていたお布団に私を優しく降ろすと、そのまま隣に倒れ込む。
顔を見れば、ニコニコとしていた。
「なによ」
若干引き気味の私に、玉彦は枕に顔を埋めた。
笑顔を隠しているつもりらしい。
「明日、母上が来る。それを父上は知らぬのだ」
「え、玉彦のお母さん、来るの!?」
私が驚いた声を上げれば、玉彦は起き上がって私の膝に頭を乗せて再び寝転んだ。
そしてそこから畳まで転がっていき、また戻ってくる。
一体何がしたいんだ。
この意味不明な行動をみると、相当に嬉しいらしい。
「来る。あの父上の失態を見られる大チャンスだ。どんな顔をするのか、今から楽しみだ」
私は玉彦のお母さんについて、写真で見たこと以外は何も知らない。
何となく聞いてはいけないような気がして、聞けなかったのだ。
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