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写真の中の玉彦のお母さんは、いつも白いワンピース。
麦わら帽子を被って、幼い玉彦を抱っこした澄彦さんと笑っている姿。
玉彦の黒髪好きはきっとお母さんがそうだったからだと思われる。
そして、物凄い美人だった。
澄彦さんとこの人の遺伝子なら、玉彦が出来上がるのも頷けた。
涼し気な目元はお母さん譲りだ。
澄彦さんは垂れ気味だし。
「ふーん。私も楽しみになってきた」
「母上も比和子に会いたがっていた。どことなく性格が似ているから、すぐに打ち解けられる」
腕を伸ばした玉彦が私の髪を梳いて、笑顔を綻ばせた。
「ただし、一つだけ気を付けなければならぬことがある」
「なに?」
「母上を母上と呼んではならない。だから比和子も間違ってもお母さんなどと呼ぶなよ。呼べばへそを曲げて、面倒だからな」
「どうしてよ」
「若いままでいたいのだろう」
「じゃあ、なんて呼べば良いのよ?」
「普通に名で呼べばよい。月子さんと」
「月子さん!?」
玉彦の口から想定外の名前が飛び出して、私は膝に玉彦の頭を乗せたまま後ろに倒れた。
天井が視界を埋めて、そういえばと思い出した。
澄彦さんの私室の天井には、小さな月のシールが貼られていた。
彼の奥の間に貼られていたものと同じものだ。
月……。
月子……。
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