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冴島月子は、玉彦のお母さんだったんだ……。
そう言えば須藤くんのお母さんが言ってたっけ……。
正武家は身内を溺愛するって。
それは離縁しようが続くんだ……。
澄彦さんは週末だけ彼女に逢いに行ける。
平日や玉彦が帰らなかった週末は鈴白村からは離れられない。
澄彦さんは息子ですら離縁した彼女から遠ざけたと言っていたから、彼が鈴白村に確実に滞在している日を見計らって、親子水入らずで旅行とかに行っていたんだ。
多分、玉彦はその事実を私に教えると何かの拍子に澄彦さんにバレてしまうから黙っていたのだろう。
それにお母さんと会っていることは、年頃の玉彦にとって照れ臭くて言い出せなかったのかも……。
私、玉彦のお母さんにあんなに嫉妬してたんだ……。
思い出すだけで顔から火が出た。
玉彦が言った通り私の勘違いで、中に入ってまで玉彦をあんなに疑って、赤くなるような事まで言わせて!
私って、本当にしょうもない!
でもそれが原因だったって、口が裂けても言えない。
言ったあとの玉彦のしたり顔が目に浮かぶ。
「どうした、比和子」
「何でもない。玉彦、今日は独身最後の夜だから一緒にお風呂でも入る?」
ほんの少しだけ罪滅ぼしをしたいと思う。
玉彦は考えた後に、首を横に振った。
「無理はしなくても良い。これからまだ時間はある」
玉彦の優しさに私も首を振る。
もう、もうもう。
笑えるくらいに心が晴れ渡った現金な私は、玉彦の上に飛び乗った。
「無理なんてしてない。別に入らないなら、いいよ。このまま寝ちゃうから。私、お風呂入らないとしないからね」
「何だと!?」
実に私の勘違いから二か月近くお預けを喰らっていた玉彦は、私を乗せたまま身を起こした。
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