玉彦の愛する誰か

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「初夜まで駄目だと思っていたが……」 「誰がそんなこと言ったのよ」 「てっきりその為に拒否をされていたのかと……」 「どうして初夜の為に拒否するのよ。散々やっといて」 「それは……」  玉彦が黙り込むので、顔を上げさせる。 「それは?」  玉彦はふいっと視線を横に流した。  その仕草が、悪代官に言い寄られて困っている町娘に見えて、私の嗜虐心を煽った。 「比和子は、何故未だに裏門を通れぬか意味を知っているか」 「急に何の話?」 「正武家へと正式に嫁げば裏門を通ることが出来る」 「そうなの?」  私は今までずっとあの長々とした石段を通ってお屋敷の出入りをしていた。  その重労働が軽減されるのは万々歳だった。 「だがしばらくは裏門を通ってはならぬ。絶対にならぬ」 「どうしてよ」 「不思議に思ったことはないか。俺と夜を過ごして一度も子が出来なかったことに」 「だって、それは……」  きちんと避妊をしていたから。  たまにそのままってこともあって、私が高校を卒業してからはもう、あれだったけど……。
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